それでも暮らしへの希望は捨てたくない。
ポップアートの先駆けとして知られるJasper JohnsのThree Flags。ホイットニー美術館の代表的な所蔵作品のひとつ。彼の作品では、日用品や廃材など、大量消費社会を象徴する素材が多く使われています。
皆さまこんにちは。favvy(フェイビー)です。
私はしばらくアメリカのボストンとニューヨークに滞在していまして、最近やっと帰国したところです。ボストンでは季節外れの冬のような日があったり、ニューヨークではからっとした初夏の日があったりと、とにかく気温差が目まぐるしい旅でした。
さて、今回はせっかくなので、アメリカの旅で抱いた複雑な気持ちを、こちらで書き連ねていきたいなと思います。え、複雑な気持ち?せっかく旅の思い出を書くんだったら楽しい内容にせんかい!という心の声(ツッコミ)もあったのですが、旅行中に訪れた素敵な場所や楽しかった思い出などは、TwitterやInstagramで日々更新していましたので、そちらをぜひご覧ください。このような投稿は、言ってみれば「光」属性。私にとって旅の醍醐味は、普段目にすることのない美しいものや、様々なデザインに出会うことなので、こういったポジティブな「光」に当たる経験は、自分の人生にとっても大切な時間です。
一方で、どんな場所も100%バラ色で完璧なところは無いわけで、今回の旅でも、いわゆる「影」の部分を垣間見ています。当然ですが、何事も光ある場所には影もあります。特にアメリカはその両面が強く存在している国だと感じたので、こちらのニュースレターでは、そんな「影」の部分にフォーカスを当てた上で、私たちの暮らしについて考えていきたいと思い立ちました。
衝撃の労働ディストピアアート
ニューヨークでは、前衛的なアートコレクションで有名なホイットニー美術館を訪れたのですが、ここの展示がなかなかパンチが効いていまして・・・。現代から近未来の労働者をテーマに、働き方について考えさせられるアートがたくさん展示されていました。
ここから少し展示内容をご紹介しますが、ちょっと怖い画像があるので、もしそういうものが苦手な方がいらっしゃいましたら、この章は薄ーーく目を細めて飛ばしてください!でも、これらはホラーものではなく、現実の労働者に目を向けたアート作品なので、個人的にはしっかり対峙したいなと思いました。
こちらは、「Blue Collars(ブルーカラー)」というタイトルの作品。お馴染みのFedExの段ボール箱に配達員の頭部を表した人形があります。ニューヨークで最低賃金ぎりぎりで休みなく働くブルーカラーの人たちを表現しているそうです。
朝食や昼食を食べるお金がなく、職場でもらえる無料のインスタントコーヒーを胃に流し込んで空腹を紛らわす日々。有給休暇もほとんどない。そして、病気になったら医療費が重くのしかかる。配達員の服は会社から支給されるけれど、なぜか帽子は自己負担。そんなやるせない労働の実態が、この作品に込められています。
そしてこちらは、「Unemployment(失業)」というタイトルの作品。ホワイトカラーの事務職であっても、不景気やAIの台頭などでいつ失業するかわからないよね、という現実を表したもの。ゴミ袋に入ったオフィスワーカーの姿があまりにも衝撃的でした。すみません、めっちゃ鬱になりそうな作品を紹介してしまい・・・。
ホイットニー美術館で目にしたシビアな「労働者」アートは、もちろん想像上のものではなく、残念ながら現実に基づいています。実際ニューヨークを歩いていると、高級デパートなどの華やかな店舗があるすぐそばで、コミュニティセンターで食料の配給(援助)を待つ長い行列を目にすることもありました。
静かな富裕層がトレンドになっている意味
話は変わりますが、最近最終回を迎えたアメリカのドラマ「Succession(サクセッション)」をご存知でしょうか?日本では一部のドラマファンを除いてあまり知られていませんが、本国では、アメリカのドラマ史上最高レベルと謳われるくらい話題になった作品です。
このドラマの主人公は、巨大なメディア企業を経営するメガリッチな一族。この一族の後継者争いがストーリーの軸なのですが、彼らが身につける服装にも大きな注目が集まりました。・・・と言っても、過去人気を博したドラマSex and the CityやGossip Girl、SUITSなどのキラキラ華やかでカッコいいものではなく、超地味なファッション。
男性は野球帽とTシャツ、女性は上下ベージュのカットソーとパンツなど、保守的なコーディネートばかり。けれど、実は野球帽は10万円近くするロロ・ピアーナのものだったり、Tシャツもボッテガのものだったり。一見ブランドものとはわからないけれど、実は超高級品というファッションだったのです。このようなファッションを表現して、アメリカでは「Stealth Wealth(レーダーに引っかからないようなこっそりとした富)」、「Quiet Luxury(静かなラグジュアリー)」という言葉がトレンドになりました。
最近のアメリカでは「Nepo Baby(ネポベイビー)」という言葉が話題になったのも記憶に新しいところ。Nepo Babyとは、「ネポティズム(縁故主義)ベイビー」の略で、親から譲り受けた名声でセレブになった子どもを揶揄する呼び方。ジョニー・デップの娘のリリー・ローズ・デップや、人気モデルのジジ・ハディッドなどが親の七光りであると指摘され、大きな議論を呼びました。
このNepo Babyを特集したNew York Magazineの表紙も結構なインパクトです。
🔗: vulture.com/article/what-i…
アメリカンドリームが信じられていた時代では、リッチな人が自らの富をひけらかしても、それが一般市民の夢の原動力になっていました。しかし、現在では富裕層と一般市民(そして貧困層)の階級は固定され、下から上にあがりにくい社会になったと言われています。そんな状況でストレートに自分の富を見せてしまうと、批判につながってしまうことも。そのような社会背景もあり、富裕層への皮肉と羨望が入り混じった形で、このような言葉たちが論争の的になったのだと思います。
今回のニューヨーク旅では、現地に住む友人とも再会したのですが、その友人によると、最近のニューヨークの治安はやや悪化しているようです。これまでニューヨークは何度か訪れていますが、路上生活をしている人の数も増えているような気がしました。ドラマ「Succession」の舞台はニューヨーク。そして、ホイットニー美術館で目の当たりにしたアートも、ニューヨークの現実の一部。この街は、良くも悪くも「アメリカの今」を表している場所なのかもしれません。ひとつ10万円近い野球帽を買える人もいれば、最低賃金の生活で、仕事のための社員帽を自腹で買わなければいけない人もいる。そんな両極端な世界が存在している街。
そして、「アメリカの今」は「世界の今」にもつながっています。
豊かな暮らしにお金は必要か?
さて、そんなアメリカの影響と切っても切り離せない国である日本。私たちが住む国でも、アメリカと同様に、物価高や貧困問題などが取り沙汰されるようになっています。