これからの時代の高級感

高級感はどこから生まれるのか?そして、これからの五感の可能性について。
favvy 2025.02.23
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スペインの『サグラダ・ファミリア』の塔から一望できる景色。こんなにも「時間の経過(建設期間の長さ)」に価値が置かれている建築物は、他にはないかもしれません。

スペインの『サグラダ・ファミリア』の塔から一望できる景色。こんなにも「時間の経過(建設期間の長さ)」に価値が置かれている建築物は、他にはないかもしれません。

皆さんは「高級感のある家」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?たとえば、磨き上げられた大理石の床、均一に仕上げられた真っ白な壁――。これらの「ツルツル」で「均一な仕上がり」は、見るからに清潔ですし、高い素材も使用しているため、ステータスを感じさせるものかもしれません。

一方で、ここ数年で、高級とされる住宅デザインの価値観が変わりつつあるな、という印象も持っています。壁や床、または家具に至るまで、あえて経年変化を楽しむ自然素材が脚光を浴び、五感、なかでも「テクスチャー(肌触り)」を重視する動きが高まり始めていると感じます。今回のニュースレターでは、そんな、高級感の価値観の変遷について考えたことを綴っていきたいと思います。

高級=ツルツルピカピカ信仰

日本では、戦後から高度経済成長期、そしてバブル期にかけて、高級感のある空間といえば「ツルツル、ピカピカ」のイメージが強かったかと思います。特に1980〜90年代のバブル期は、光沢のあるフローリングや金属・ガラスのきらめく内装が「高級」の象徴に。家も、クルマも、何もかもが「ピカピカで傷ひとつない状態」こそがステータスだとされていました。実際、このような時期に建てられたマンションやホテルを訪れると、ツルッとした大理石の床や、キラキラのゴールドの装飾など、眩しくて派手な素材が目立ちます。

その流れが2000年代にも残り、いわゆるハウスメーカーの高級シリーズでは、ピカピカで、クオリティが均一な素材が選ばれるのが定番になっていました。

日本の「新しもの好き」な傾向については、以前のニュースレターでも触れましたが、特に住環境においては、「宝石を連想させるような光沢感と、新品を連想させるような均一性と傷ひとつない空間」に対する市場価値が高かったように思えます。その一方で、わかりやすい素材で均一化され過ぎた空間は、一部のインテリア好きな人にとっては「どこかのっぺりしていて物足りない」と感じる人も増えてきました。

経済成長期やバブル真っ只中の頃は、何よりも「わかりやすい高級感」が主流だったと思いますが、今はそんな右肩上がりの経済成長がある時代でもありませんし、大抵の生活必需品は十分に行き渡っているので、大理石やゴールドなどのわかりやすい富の象徴だけでは、人々の心をつかみにくくなりました。そこで注目されるようになったのが、私たちが身近な、「とある感覚」です。

70年代、まだ日本が右肩上がりの経済成長をしていたころに建てられた熱海の『ホテルニューアカオ』。キラキラのシャンデリアと、ブルーオニキスがまるっと使われた極太の柱など、この時代特有のちょっとミスマッチで、地に足のついていないような豪華さ。

70年代、まだ日本が右肩上がりの経済成長をしていたころに建てられた熱海の『ホテルニューアカオ』。キラキラのシャンデリアと、ブルーオニキスがまるっと使われた極太の柱など、この時代特有のちょっとミスマッチで、地に足のついていないような豪華さ。

上品な感覚と下品な感覚

私たちは日々、目で見て、耳で聞くなどの感覚器を使って生活していますが、「ふれる」ことに深く意識を向ける機会はなかなかありません。しかし、最近、美学を専門とする研究者、伊藤亜紗さんの著書『手の倫理』を読んで、普段あまり注目されない触覚が、実は人間にとって非常に重要な意味を持つことに気づかされました。

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  • テクノロジーが手を出せない領域
  • お金では買えないもの
  • 「遅いこと」が贅沢

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