宝物を見つける「異邦人の眼」
数年前に訪れたモロッコのマラケシュの道端にて。日常を暮らす街に色と装飾が溢れている光景。地元の人にとっては当たり前でも、日本から来た私にとっては「非日常」の空間でした(猫さまの可愛さは世界共通)。
夏は、花火大会や海水浴など、楽しいイベントが目白押しのはずですが、最近は暑過ぎて、外に出るのも命懸け。今の子どもたちって、そもそも外で遊べているのでしょうか?
すっかり大人になっている私は、熱中症リスクがあるアウトドアではなく、主にインドアで夏を粛々と過ごしています。芸術の秋と言いますが、私の場合は、美術館に行く回数が増えるのは夏かもしれません。そんな美術館で、先日、とある日本の伝統工芸に出会いました。
陶芸とブラックカルチャー
美術館の場所は六本木ヒルズの森美術館。そして、その工芸品に出会わせてくれたのは、アフリカ系アメリカ人アーティストのシアスター・ゲイツ (Theaster Gates)でした。展示タイトルはずばり『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』。「アフロ」と「民藝」という、一見全く別世界に生きる存在同士が、思わぬ形で出会った、とてもユニークな企画でした。
シアスター・ゲイツは、ブラック・カルチャーを背景に持つ、世界的にも著名なアーティスト。彼は、2004年に愛知県の常滑焼と出会い、日本の「不完全な美」に惹かれたそうです。また、西洋文明に対抗しつつ伝統を守る民藝運動に、アメリカの公民権運動をはじめとするブラックカルチャーの活動との共通性も見出します。その結果として、ローカルの文化を尊重する『アフロ民藝』という新しいジャンルを創り上げたそうです。
アルファベットでどどーんと書かれた常滑焼(TOKONAME YAKI)。写真では伝わりませんが、この整然とした陳列に圧倒されました。東洋の不完全の美と西洋の均等の取れた整列の美が合わさったような、独特の雰囲気。
ミラーボールが輝く中、ABBAやElton Johnなど70年代の音楽が鳴り響くディスコ空間に、日本酒がずらり。
鑑賞後、ミュージアムショップで見つけた常滑焼の器。素朴な土の手触り感の中に、ほんのりと頬が上気しているようなピンクの差し色。このギャップに心惹かれ、すぐに購入を決めました。
まさか六本木で常滑焼の器を買うなんて、展示を見る前は全く想定していませんでしたが、このひとりのアメリカ人アーティストのおかげで、日本の陶芸の魅力を再発見することができました。
仏像を守った西洋人
今年出会った本の中で、特に心に染み入るような感覚を覚えた一冊。それは杉本博司の『苔のむすまで』。アートに関心のある方にはもはや説明不要の、超有名な芸術家である杉本博司。その杉本御大のエッセイ集とあって、「一体どんな文章を書く方なんだろう?」と興味本位で立ち読みしたところ、みるみるうちに、彼の思考回路の渦に呑み込まれてしまいました。
アメリカ同時多発テロ事件と鴨長明の『方丈記』、そしてコルビュジェをはじめとするモダニズム建築までが、ひとつのテーマで語られる。時空と地域とジャンルを超えて、縦横無尽に思考の海を漂うような文章の世界観に圧倒されたのです。