コンサバなトレンド?今「Old Money」に注目する理由
フランス南西部の小さな村にあるリトリート施設『Les prés d'Eugénie』。1800年代に建てられたお屋敷に、ホテルとスパ、そして有名なミシュラン三つ星レストランが入っています。知人がここでシェフを務めていたので遊びに行ったのですが、いかにも由緒正しい雰囲気で、客層も思いっきりOld Moneyな感じでした(場違いな感じがして緊張)。
『一生モノのアイテム10選』、『投資するならこれ!ずっと使える名品たち』……ファッション誌でたまに目にする特集。ストリート系のだぼっとした服が流行ろうが、厚底&ミニスカートが流行ろうが、目まぐるしく吹き荒ぶ時代の風を受けずに、無風地帯の場所でひっそりと存在し続けるタイムレスな定番品。
これを象徴する高級ブランドのアイテムは、シャネルのツイードジャケットや、エルメスのバーキンなどでしょうか(買えない)。最近はブランド品の値上がりラッシュで、比喩ではなく本当に投資商品になっちゃった感がありますね。庶民の私にとって、賞味期限が短そうな流行りモノに何十万円も払えませんが、タイムレスなアイテムだったらいつか……と夢見ていましたが、今はその夢も打ち砕かれそうです(ほろり)。
“古いお金”の流行?
そんな、流行とは関係ないはずだったタイムレスなアイテムたちが、なんと今はトレンドど真ん中になっています。名付けて、「Old Money(オールドマネー)」と呼ばれるスタイル。そもそもOld Moneyとは、何世代にもわたる地位や資産を受け継いでいる良家の富裕層を指す言葉。今では、このような良家のお嬢様やお坊っちゃまが着るような、コンサバなファッションがトレンドのひとつになっています。アイコンは、ジョン・F・ケネディ・ジュニア夫妻、ダイアナ妃など。アメリカのブランド『Ralph Lauren(ラルフ ローレン)』はまさにこのスタイルの代表格です。
InstagramのOld Money関連投稿。ハッシュタグ#oldmoneyで100万以上の投稿があります。Tiktokでは、Old Money関連の投稿はなんと25億ビュー以上あるようです。
このトレンド、欧米(特にアメリカ)では、ヒットした映画作品にも反映されています。ひとつは、今の若手俳優でトップクラスに注目されているゼンデイヤ主演の『Challengers』。テニスの世界を舞台にしたスリリングな三角関係を描いた作品ですが、この映画でゼンデイヤの役が身につけているシンプルで上質なシャツやカルティエの時計、シャネルのフラットシューズ……全てがまさにOld Moneyを体現しています。そもそもテニスは中産階級以上が対象とされたスポーツ。ウィンブルドンの試合の観客席なんて、もうほんと、良家のセレブリティオーラが満載ですよね。このOld Moneyスタイルに付随して、「Tennis Core(テニスコア)」と呼ばれるトレンドも現在流行中です。
他にも最近では、Netflixで、富裕層の生活が描かれている『Ripley(リプリー)』というドラマが始まったり(1999年には、Matt Damon(マット・デイモン)と Jude Law(ジュード・ロウ)が演じていたバージョンも)、欧米では『Saltburn(ソルトバーン)』という映画もヒットしたりしました。こちらも「階級」がひとつのキーワードになっています。
古くからの時代や伝統を感じさせるデザインといえば、インテリアの世界でも「Granny chic(グラニー・シック)」と呼ばれる、おばあちゃんの家にあるような懐かしい装飾を取り入れたスタイルがトレンドになっています。こちらもOld Moneyスタイルと同様に、代々の家族の物語を感じさせるような懐かしさや、物質的な豊かさを感じさせます。ちなみに、こういった、ちょっとおばあちゃんテイストを好むミレニアル世代を、アメリカでは「Grandmillennial(グランドミレニアル)」と呼んでいます。
流行の裏側にある社会背景
さて、このOld MoneyやGranny Chicのような伝統的なスタイルが、なぜ今トレンドなのでしょうか?背景にはさまざまな要因が考えられますが、以下にいくつか傾向をまとめてみました。