言語格差がセンス格差を生んでいる?海外旅行から考えたこと。
昨年の旅で訪れたTWAホテル。ここはなんと、昔使われていた空港ターミナルなのです。サーリネン建築らしい美しい曲線に心奪われました。
私の生涯の趣味は旅行。特に海外旅行が好きです。国内旅行も好きですが、やはり、日本とは全く違う国に行くと、日常では得られない刺激があり、心から楽しいと思えます。いつもと違う脳の部分が活発になるような感覚。
今回のニュースレターでは、旅を通して得た雑感をシェアしたいと思います。それは、言語格差がセンス格差を生んでいるのではないか?ということです。
海外旅行のツアーから日本人が消えた?
私は、初めて訪れる場所があれば、だいたいは地元の人によるウォーキングツアーに参加します。このツアーは毎度ハズレがなくて、本当に面白いんです。知らなければ絶対に通り過ぎていた街の小さな標識に、驚きの歴史が隠されていた・・・なんて解説があるので、ただ歩くよりも何倍も楽しい。これまで、キューバ、ポーランド、アメリカ、イギリス、ロシアなどで、地元っ子のツアーに参加しました。
ちなみにこのツアー、JTBやHISなどの旅行会社で手配したものではなく、全てネットで、個人のガイドさんを見つけています。所要時間も2時間から半日まで、コースによって色々。例えば、昨年参加したシカゴのウォーキングツアーでは、「シカゴの都市のなりたち」をテーマとしたツアーで、生まれも育ちもシカゴという人に案内してもらいました。ガイドさんによっていろんな特色があるので、「シカゴギャングの裏歴史を巡るツアー」なんていうのもありました(こっちも行きたかったのですが時間がなかった・・・)。
このようなウォーキングツアーは、日本の旅行会社が手配するツアーよりももっと気軽に、面白いテーマで、お友達に案内してもらっているような感覚で参加できます。ちなみに、私の場合はAirbnbやTripadvisorでツアーを探します。ニューヨークのツアー例だとこんな感じ。どうでしょうか?いろんなニッチなツアーがあって楽しそうですよね。
ところで、この現地の人によるツアー、話されている言語はほぼ英語です。ガイドさんの話せる言語によって他言語対応もありますが、だいたいは世界共通語としての英語がほとんど。日本語のツアーはよほどの定番観光地でなければまずありません。そして、ここ数年訪れた英語によるウォーキングツアーで、日本人に遭遇したことはほぼありませんでした。
ウォーキングツアーだけではなく、美術館や博物館などの解説も、だいたいは英語が多い。最近の美術館では、ガイドアプリで多言語対応しているところもありますが、日本語がないことも度々あります。ちなみに、今回訪れたシカゴ美術館では、アジアの言語で中国語と韓国語はありましたが、日本語はありませんでした。「ああ、もう日本人はかなりのマイノリティになっているのだな」と若干の切なさを感じた瞬間。多分、日本語対応のあるツアーは、パリのルーブルツアーとか、そういう超定番くらいでしょうか・・・。
最近のこんなツアーガイド事情を目の当たりにして感じたことは、せめて英語だけはある程度できないと、得られる知識にすごい差が出てしまうなということ。もちろん、言語が話せなくても旅には価値があると思いますし、もっと言えば、英語じゃなくて、現地語でしかわからないリアルなものもあると思います。ただ言えることは、英語ができないだけで、いろんな面白い情報を取り損なってしまうということ。
参加したシカゴのウォーキングツアー。ガイドさんは生粋のシカゴっ子。街の歴史から現在の都市の課題まで、あらゆることを教えてくれました。
こちらはシカゴ建築ボートツアー。ガイドさんの軽快なトークで建築を楽しく学べました。
ツアーから考える、センスの成長機会
「センスとは知識の集積である」この言葉は、私が何度も読み返した本、水野学『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版)からの一節。これまで私は、センス=先天性、もしくは幼少期の育ちによるというイメージがありました。しかし、この本の著者である水野さんは、センスというふわふわしがちな概念について、はっきりと、「知識に基づく予測、知識の集積」そして、「センスは自分自身の努力で磨くことができる」と断言しています。
確かに、自分自身のインテリア遍歴を振り返っても、学生時代、いや、数年前の部屋でも「ダサいインテリアだな・・・」と感じます。今自分が良いと思っているインテリアも、数ヶ月後、数年後にはまたダサいと思うのかもしれません。この理由はおそらく、水野さんの考え方を借りると、これまでに得た知識によって、少しずつセンスが育っていったからだと思います。私の場合は特に、旅で得た歴史、建築、インテリアなどの知見が、知らずのうちに頭にインプットされ、それが自分自身のセンスとして反映されているのだと思います。
念のため言っておくと、自分にセンスがあると思っているわけではなく、あくまで過去の自分と比較して、少しずつセンスが育っているという実感です。
ここで最初のツアーの話に戻ります。英語ができないことで、旅先での多くの情報を取り逃しているのであれば、それって、センスを育てる機会を失っていることにも繋がるのかな、と考えました。
言語ができなくても、旅先で素晴らしいデザインや自然の美しさなどに触れることはできます。これは「五感、特に視覚による情報」です。しかし、そのデザインや自然の背景にある知識は、「言語による情報」を通してしか知ることはできません。
例えば、ココ・シャネルによって広まったと言われるブラックドレス。視覚情報だけでは、「黒い服、なんかカッコいいな」という感想で終わるかもしれません。ここで、この情報が入るとどうでしょうか。
「ココ・シャネルは、ブラックドレスを広めた先駆者。実は当時、黒い服は喪服というイメージがあったが、シャネルは、黒一色の装いが女性を美しく引き立たせると考えていた。今では当たり前の黒い服は、実はファッション界の革命だった」
この情報を知った後では、確かに「黒い服、なんかカッコいいな」という印象はそのままかもしれませんが、カッコいいと思う理由が何となく言語化できると思いませんか。しかも、デザインの背景にある歴史を知ることで、世界が広がります。つまり、視覚をはじめとする五感と言語による情報の組み合わせが「知識」となり、その結果、センスが育まれていくのだと思います。
情報を得る手段は、インターネットでも、本でも、旅先でも、近所の散歩でも、何でもあると思います。ただし、言語による情報は、当然ながら、自分が知っている言語のみに限られます。日本語しか知らなければ、日本語を話す人、日本語の本、日本語のニュース記事と、日本語圏の情報のみにしかリーチできません。もしここに英語が入れば、アメリカやイギリスなどの英語圏のみならず、非英語圏の一部情報も得ることができます。
私の場合、日本だけではなく海外のインテリア事例を積極的に調べたことで、たくさんのデザインのパターンを見ることができました。また、海外の本や記事、そしてYoutube動画からも情報を得ることができました。日本のことに加え、海外にも目を向けることで、ぐっと視野が広がったと感じます。
井の中の蛙にならないために
繰り返しになりますが、私は自分のセンスに自信があるわけではありません。英語も、海外留学経験があるわけではなく、まだまだ未熟なところもあります。
でも、年々積み重なる知識量によって、「去年よりも今年の自分の選択が、より良い」と感じています。そして、その積み重ねは、日本語からの情報に加え、海外からの情報も多く含まれています。
あらゆる見識は日本だけでも充分に育めるのではないか?そうかもしれません。長い歴史のある日本にいれば、書物から建築まで、情報は豊富にあります。美的感覚においても、枯山水や千利休の茶室,そして浮世絵など、世界の中でも非常にユニークで洗練されたものがたくさん存在します。
けれど、日本独自と思える文化も、古くは遣隋使や明治時代の岩倉使節団など、時代ごとに海外から学んだキーパーソンが必ずいました。「これは日本らしい」と思える文化でも、海外から1ミリも影響を受けなかったものは、ほぼ無いのではないでしょうか。
近年では、日本の制度からサービスまで、ガラパゴス化が懸念されていることをよく見聞きします。私が好きなインテリアについても、アジアを含めた海外ではデザインの選択肢が多いのに、日本は家の仕様がどこも似ているせいか、バリエーションの少なさを感じることが多々あります。(以下は、過去の私のツイートです。)
決して、ガラパゴス=悪ということではなく、独自のユニークな文化が育つという点では面白い面もあるでしょう。ただ、日本国内だけに目を向けていると、新しい知識を得るための情報源が限定されてしまうので、センスを育ているという点では、機会損失なのかなあと思います。
逆に、日本の文化を海外に伝えるという点でも、やはり日本国内だけに目を向けていると機会損失につながると思うのです。
これまで海外を旅した経験で、「英語の情報に触れたからこそ広がった世界」を身をもって体感しました。しかし、誤解して欲しくないのですが、私は「英語が出来ない人はセンスが無い」、「多言語話せる人はセンスがある」と言っているわけではありません。
外国語が出来る出来ないというより前に、まずは外の世界を知ってみたいという好奇心が、センスの育成という観点で大事だと思うので、年を重ねても好奇心を保ち続けられる、そんな人になりたいと思っています。
今回は、海外旅行のツアーから、センスと言う観点で雑感が浮かんだので、自分なりに整理してみました。つたない考察ですが、読んでくださりありがとうございます。
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